「生計別の長男が同じ敷地に別棟を建てて居住|土地の評価単位と小規模宅地等の特例を具体例で解説」

今回は、被相続人と生計別の長男が同じ敷地に別々の建物を建てて暮らしていた場合の「土地の評価単位」と「小規模宅地等の特例」の適否について、具体例を踏まえて解説します。

この記事はこんな人におすすめ!
- 被相続人が長男に土地を無償で貸して、長男が自分の家を建てていた方
- 同じ敷地に2棟の建物があり、評価単位をどう分けるか悩んでいる方
- 長男が相続した土地に小規模宅地等の特例が使えるか確認したい方
「土地は1つなのに、建物が2棟ある。この場合、相続税の計算ではどう評価するの?」と疑問に思う方は多いはずです。
しかも、長男が自分で建てた家であっても、生計が別であれば特例の扱いが大きく変わります。
この記事では、評価単位の判断から特例の適否・計算例まで、順を追って解説します。
1. このケースの前提と全体像
まず、今回の前提を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被相続人 | 甲(父)。配偶者は既に死亡 |
| 相続人 | 長男 乙(生計別)のみ |
| 土地 | 甲所有の宅地 400㎡(1筆) |
| 建物① | 甲が所有・居住していた家屋(A部分:250㎡相当) |
| 建物② | 乙が所有・居住する家屋(B部分:150㎡相当)。甲から土地を無償(使用貸借)で借りて建築 |
| 生計関係 | 甲と乙は生計を別にしている |

「使用貸借」とは、無償で土地を貸し付けることです。賃貸借(有償)と異なり、借主の権利は法的に非常に弱く、相続税の財産評価では借主(長男)の使用借権を「零」として扱います。これが評価単位と特例の判断に大きく影響します。
2. 土地の評価単位——1画地か、2画地か
相続税では、土地を「利用の単位」ごとに評価します(財産評価基本通達7-2)。
では今回のように、1筆の土地に被相続人と生計別長男の建物が並んでいる場合、評価単位は1つでしょうか、2つに分けるのでしょうか。
(1)使用貸借地の評価単位の原則
使用貸借(無償貸付)により土地を貸し付け、借主が建物を建てている場合、借主の使用借権の価額は零として扱われます(使用貸借通達1、3)。
これは、使用借権が借地借家法による法的保護を受けられず、経済的交換価値が極めて低いためです。
その結果、土地は「自用地」として評価され、貸している部分も含めて1画地の宅地として評価することになります。
📌 重要:仮に土地が1筆で、被相続人居住部分・長男居住部分に明確に区分されていても、使用貸借の場合は原則として1画地(全体)で路線価評価を行います。
(2)2画地に分かれる場合との違い
もし長男が賃貸借(有償)で土地を借りていたなら、長男部分は「貸宅地」、甲の居住部分は「自用地」として別々に評価単位を分けることができます。
今回は無償(使用貸借)のため、この分け方はできません。
| 長男への貸付方法 | 長男の権利評価 | 評価単位 |
|---|---|---|
| 使用貸借(無償) | 使用借権=零 | 全体を1画地(自用地) |
| 賃貸借(有償) | 借地権あり | 2画地に分割可(貸宅地・自用地) |
⚠️ 注意:「固定資産税相当額のみ受領している」だけでは賃貸借とは認められないケースがあります。権利金・地代の水準が通常の取引と乖離している場合、使用貸借と判定されることがあります。
3. 小規模宅地等の特例の適否
評価単位が1画地(400㎡)と確定したところで、次に「小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)」が使えるかどうかを確認します。特定居住用宅地等の限度面積は330㎡まで80%減額です。
(1)特例の適用要件(居住用)
要件
- 要件① 相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた宅地等であること
- 要件② 次のいずれかの親族が取得すること
・配偶者
・同居親族(相続開始から申告期限まで居住・保有を継続)
・家なき子(相続開始前3年間、自己または配偶者等の所有家屋に住んでいないこと等) - 要件③ 申告期限(相続開始から10か月)まで土地を保有し続けること(同居親族・家なき子の場合)
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
(2)長男(生計別)が取得した場合の特例適否
長男 乙は甲と生計を別にしており、甲の家屋(A部分)には居住していません。また、乙はB部分に自己所有の家屋を持っているため、「家なき子」の要件も満たしません。
📌 重要:措法69の4③ニイの要件は「相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族」です。乙はA家屋ではなくB家屋に居住していたため、特定居住用宅地等には該当しません。
⚠️ 注意:乙の妻が甲の日常生活の世話をしていても、乙自身が甲と同居していたとは認められません。「世話をしていた」という事実だけでは同居要件を満たせないため、特例は使えません。
| 取得者 | 居住状況 | 特例の適否 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | (既に死亡) | - | 相続人でないため対象外 |
| 長男 乙(生計別) | B家屋(自己所有)に居住 | ❌ 非該当 | 甲のA家屋に同居していない。自己所有家屋あり→家なき子も× |
| 孫など第三者(家なき子要件を満たす場合) | 持家なし・3年以上賃貸居住など | ✅ 要件次第で該当 | 甲の一親等の血族でない場合は2割加算に注意 |

生計別の長男がB家屋に住んでいるということは、長男は「自分の家を持っている」状態です。家なき子特例は「相続開始前3年間、自己または配偶者等の所有家屋に住んでいないこと」が条件ですから、自分が建てたB家屋に住んでいる長男には、この特例は適用できません。
4. 具体的な計算例
ケースA:長男 乙が全部取得・特例なし
前提:宅地400㎡、路線価に基づく自用地評価額 8,000万円(1㎡あたり20万円×400㎡)
| 項目 | 内容・金額 |
|---|---|
| 評価単位 | 1画地 400㎡(自用地) |
| 自用地評価額 | 20万円 × 400㎡ = 8,000万円 |
| 小規模宅地等の特例 | ❌ 非該当(長男は同居・家なき子いずれの要件も不充足) |
| 相続税評価額 | 8,000万円(減額なし) |
ケースB:家なき子要件を満たす孫が取得した場合
前提:同上。甲の子(長男乙)以外の相続人として孫 丙が遺贈で取得し、家なき子要件を満たすと仮定。
| 項目 | 内容・金額 |
|---|---|
| 評価単位 | 1画地 400㎡(自用地) |
| 自用地評価額 | 20万円 × 400㎡ = 8,000万円 |
| 特例適用面積 | 330㎡(限度面積) |
| 減額対象評価額 | 8,000万円 × 330㎡ ÷ 400㎡ = 6,600万円 |
| 減額額 | 6,600万円 × 80% = 5,280万円 減額 |
| 相続税評価額 | 8,000万円 - 5,280万円 = 2,720万円 |
⚠️ 注意:孫への遺贈は相続税の2割加算(相法18条)の対象です。孫が取得する場合、算出した相続税額にさらに20%を加算する必要があります。小規模宅地等の特例で評価額は下がっても、2割加算があるため最終的な税負担を試算する際は必ずセットで確認してください。
⚠️ 注意:家なき子特例は令和2年4月1日以降の相続から要件が厳格化されています。「3年以内に自己・配偶者・3親等内親族・特別の関係にある法人の所有家屋に住んでいないこと」が条件です。形式的な贈与で家を手放したケースも対象外とされます。
5. 評価単位の判断フロー
土地の貸付形態を確認する
→ 無償(使用貸借)か有償(賃貸借)か
使用貸借の場合:長男の使用借権=零 → 土地全体を自用地として1画地で評価
賃貸借の場合:甲の居住部分(自用地)と長男の借地部分(貸宅地)に2分割して評価
小規模宅地等の特例の適否確認
→ 取得者ごとに「同居」「家なき子」「生計一親族」の要件を1つずつ確認
遺贈・代償分割などがある場合は2割加算・取得者ごとの按分も確認
6. よくある質問(FAQ)
よくある質問
-
Q. 長男が土地を無償で使っているのに「自用地」として評価されるのはなぜですか?
-
使用貸借(無償貸付)による借主の使用借権は、借地借家法による保護がなく経済的価値がほぼないため、財産評価基本通達では価額を零として扱います。その結果、貸している部分も含めて土地全体が「自用地」(更地と同じ状態)として評価されます。賃貸借と異なり、貸家建付地や貸宅地としての減価は認められません。
-
Q. 長男の妻が被相続人の身の回りの世話をしていれば、同居とみなされますか?
-
なりません。小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の同居要件は、「相続開始直前において被相続人の一棟の建物に居住していた親族」である必要があります(措法69の4③ニイ)。長男が被相続人の建物(A家屋)ではなく自分の建物(B家屋)に住んでいた場合、世話の有無にかかわらず同居要件を満たしません。
-
Q. 被相続人居住部分と長男居住部分を物理的に区分して、別々の評価単位にできますか?
-
使用貸借の場合は原則としてできません。1筆の土地に2棟の建物があっても、長男の使用借権が零のため「長男居住部分=自用地の一部」として一体評価されます。ただし、土地が複数筆にわかれていて独立して利用できる状態であれば、筆ごとに評価単位を検討できます。詳しくは財産評価基本通達7-2をご参照ください。
-
Q. 長男が相続後すぐに土地を売った場合、特例は使えましたか?
-
特定居住用宅地等の特例(家なき子・同居親族)は、申告期限(相続開始から10か月)まで土地を保有し続けることが要件です。相続後すぐに売却した場合、保有継続要件を満たさないため特例は適用できません。また、そもそも長男乙は同居要件・家なき子要件を満たしていないため、売却の有無にかかわらず今回の事例では特例は使えません。
-
Q. 長男が土地を相続した後、B家屋を壊して更地にすれば評価が下がりますか?
-
相続税の評価は相続開始時点の現況で行います。相続後に建物を取り壊しても、相続税の評価額には影響しません。評価を下げるための対策は相続開始前に行う必要があります。また、建物を取り壊すことで将来の譲渡所得税の計算にも影響が出る場合があるため、解体前に税理士へご相談ください。
7. まとめ
- 被相続人が生計別長男に土地を無償(使用貸借)で貸している場合、長男の使用借権は零評価となり、土地全体が1画地の自用地として評価される
- 長男が被相続人のA家屋ではなく自己所有のB家屋に居住している場合、同居要件・家なき子要件をいずれも満たさないため、特定居住用宅地等の特例は適用できない
- 家なき子要件を満たす他の相続人(孫など)が取得すれば330㎡まで80%減額できるが、孫への遺贈は2割加算の対象となるため、最終的な税負担を必ず試算すること
- 土地の評価単位と特例の適否は、貸付形態(使用貸借か賃貸借か)・取得者の居住状況・生計関係の3点で結論が大きく変わる
- 複数筆の土地に建物が分かれているケースや、贈与後に使用貸借となったケースでは、評価単位の判断がさらに複雑になるため個別検討が必要

「同じ敷地に住んでいるのだから同居では?」という感覚は理解できますが、税法上の「同居」は建物が同一かどうかで判断します。特に生計別で別棟に住んでいるケースは、特例が使えないと申告後に指摘されるケースも見受けられます。相続が起きる前に、土地の貸付が使用貸借になっていないかどうか、特例要件を満たす相続人が誰かを確認しておくことが、大事です。お気軽にご相談ください。
- 相続税評価額の概算を自分で計算する方法は以下で解説しております。
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